船橋 仁:ICMG Group代表取締役会長
木川 眞:ヤマト運輸元代表取締役社長/ヤマトHD株式会社元特別顧問/ICMG Group社外取締役
――木川さんとICMG Group船橋CEOとの出会い
木川:ICMG Groupとの出会いというより、船橋(以下フナ)さんとの出会いは、経済同友会がきっかけでしたね。「この人が、こんな会社をやっているんだ」と知って、コミュニケーションを取り始めたら、いつの間にか一緒に仕事をするようになっていた、という感じです(笑)。ちょうどその頃は、ヤマトホールディングス(以下ヤマト)で次の成長戦略を自分なりに考え、実行し、社長のポストを後任に譲った直後くらいのタイミングでした。
当時のヤマトは、ご存じの通り、小倉昌男さんという「宅急便の中興の祖」が、確固たる方針をもって会社を引っ張ってきました。そして「サービスが先・利益は後」という素晴らしいDNAが根付いていました。だから社員には、「カリスマについていけばいい」という風土が成功体験として深く染み付いていたんです。
私が銀行からヤマトに来たのが、宅急便がスタートしてからちょうど30周年という節目を迎えた時期。「個人向けの宅急便」中心から脱却しつつ、次の成長に向けて事業を新しい形にする役割を担ったわけです。
船橋:偉大な創業者が築き上げた、強固な仕組みを変えるというのは、並大抵の覚悟ではできませんよね。木川:そうですね。思い切って変える流れを作るのが、外部から来た私に託されたミッションでした。ただ、ヤマトの良きDNAを残しつつ変革しなければならない。そこで私は、人を中心とした非財務価値を新しい形で付け加えることを目指しました。
でも、財務的には思い切ったネットワーク投資を増やし事業ポートフォリオを変革したけれど、肝心の「人」がまだ育ちきっていない、という感覚がありました。
社長職をバトンタッチするにあたり、非財務価値である「人」を育てる部分を誰かにサポートしてもらいたいと考えていた時に出会ったのが、ICMG Groupの「知的資本」という考え方でした。非財務価値を大切にする人たちの集団だと感じたんです。
大多数の人は、新しいことを始めることに抵抗を感じます。ましてや小倉昌男さんが築いてきたものを変えるとなれば、反発も少なくなかった時代でした。だからこそ、私と一緒に変革を起こしてくれる存在——実際には、私の後任となる社長を支える役割を担ってほしい、そんな思いでコミュニケーションを取り始めたのがきっかけでしたね。
船橋:当時私はまだ若かったのですが、さまざまな経営者の方とお話をさせていただく中で、経営思想や経営哲学について語られる木川さんの姿を拝見し、「本当に素晴らしい方だな。いつかお近づきになりたい」と、ずっと思っていました。ですから、木川さんからポジティブな反応をいただけた時のことは、今でも鮮明に覚えています。
我々が実現しようとしているチャレンジと、木川さんが実現したいと考えていたこと。そのフィーリングが、自然と共鳴し合ったのではないかと感じています。

――既存コンサルとは違うICMG Groupのビジネスモデル
木川:基本的な考え方が私の感性に合ったというのが、いちばん大きなポイントでしたね。実を言うと、私は銀行時代から大手コンサル会社との付き合いをあまり重視してこなかったんです。こんなことを言うと怒られるかもしれませんが(笑)。
船橋: それは、どうしてですか?
木川: 従来のコンサル会社は短期間だけ会社を見て、きれいなシナリオを描いて「はい、どうぞ」と置いていく。でも、現場はそんなに簡単には動かない。だからコンサル会社に丸投げしてシナリオを書いてもらおうとは思っていなかったんです。もちろん、自分が描いた基本シナリオの妥当性を検証したり、社内の承認を得やすくするためのサポート役をお願いすることはありましたが。そんな中で出会ったのがICMG Groupであり、フナさんだった。
ICMG Groupが積み重ねてきた実績に加えて、フナさんの個性、そして企業の中に深く入り込み絶対に逃げずに伴走し続けるという、他社にはないビジネスモデルに触れたこと。それが、共創したいと思った最大の理由ですね。
船橋:確かに、お互い直感力が働いた感じがしますよね。
木川:本当にそうですね。ICMG Groupのすごさは背伸びして格好いいことばかりを並べるのではなく、あえてダメな領域をえぐり出しながら、経営層だけでなく、次世代の中核社員たちにまで徹底的に寄り添ってくれるところにある。このスタイルは、本当に魅力的でした。
新しい成長戦略を描き、それを実行するうえで不可欠なのは、やはり「人」です。そして、経営トップと思想が合うかどうか、どのくらい本気でやろうとしているか、これが非常に大事なポイント。
私がヤマトで最初に取り組んだのは次世代のリーダーをつくることと、事業ポートフォリオを変えていくことでした。個人向けからB2Bへとビジネスモデルを変革する流れはつくれる。でも、それをバトンタッチする際に、誰が支えるのかと考えると、最初から人を育てておかなければならない。
そこで、人材育成のために次世代リーダー塾を立ち上げました。その一期生が、今の社長です。彼は、極めてパワフルに行動する人物でしたね。
船橋:木川さんが実践されてきた経営のやり方も、ICMG Groupが取り組んでいる知的資本経営も、どちらも根気のいる仕事です。本音を言えば、全部任せてもらって戦略を描いた方が楽だな、と思うこともあります。
でも、それでは完全に自己満足の世界になってしまう。ビジネスモデルは描いたけれど、「では、誰がやるんですか?」という話になりかねない。企業側の人たちが腑に落ちていなければ、うまくいかないんです。
彼らに当事者意識を持ってもらうというのは、コンサルティングとしてはかなり高度な技術です。受け手側が本気になり自らをリードしていく状態をつくるには、もう一段違う能力や体力が求められる。でも私たちはそれを本気で、ICMG Groupの社員一人ひとりができるようになることを理想にしています。大事だけれど、誰もができる仕事ではないと思っています。
木川:企業の変革をリードするのは、もちろん企業トップです。しかし、それを支えるのは中核となる社員たちで、彼らが自分ごととしてついてこられるかどうかで実現性は大きく変わる。
だからこそ、そのプロセスを続けていくところがICMG Groupの本当の強みだと思います。現場では、「コンサルなんていらねぇよ」と言う人もいますよ。でも、気がつくと自分ごととして、ICMG Groupと一緒に考え始めている。このスタイルこそが、ICMG Groupの魅力だと思いますね。
船橋:ありがとうございます。私たちは、まさにその「現場が動かない」という壁を突破することにこだわり続けてきました。私の著書(知的資本経営入門/生産性出版)にも書いていますが、「分かりきったことを言われても困るんだよね」と言っていた日立製作所が、当時まだ10人ほどしかいなかった私たちの会社を、あえて起用してくれたんです。
正直に言えば、日立製作所が持つ強さや能力、マネジメント力から学んだことは多かったですね。
木川:知的資本を軸にした強みは、これからもICMG Groupの最大の売りであることに変わりないですよね。

――日本の地域とグローバルサウスを繋ぐ新戦略
船橋:ちょうど今、知的資本の強みを軸に据えながら、そこにつながる新しい領域をつくり始めています。特にインドを中心とした、グローバルサウスへの展開ですね。
木川: いい感じで流れ始めたな、という感じがしますよ。
船橋: これは、日立製作所のアジア改革や日立インドの事業開発を一緒に取り組ませていただいた経験が大きいですね。加えて、ヤマトのアジア・パシフィック戦略をお手伝いしたことも、非常に貴重な経験になりました。
木川: 日本国内ももちろん大事なんだけれど、地方と一緒に成長していく枠組みが日本にはこれまでなかった。どうしても東京一極集中で大企業にばかり光が当たってしまう。そこを何とかしたい、という軸で一緒にやってきましたよね。
船橋:まさにその通りです。地域と東京、東京とシンガポールを起点にしてアジアへ、というコンセプトが、この10年をかけて「グローバルサウス」という形へ進化してきました。現在はインドに拠点を置いて活動していますが、これは私たちの経営思想である「人的資本から始まる変革」を実践するためでもあります。
木川:人的資本から始めると、どうしても財務、つまり利益に結びつくまでに時間がかかりますよね。再生案件であればスピーディに進められますが、そうでない場合は人が動くまでに時間がかかる。そこは、ある意味で知的資本経営のウィークポイントでもある。
船橋:ええ。ただ、多くの企業と向き合ってきた結果として、現在は「KACHI(価値・勝ち)モデル」という新しいサービスを始めています。特にデジタルプラットフォームの活用が必須となる中で、成長市場であるグローバルサウスにどう立ち向かうか。単なるマーケットリサーチではなく、実践を通じて取り組む点を強みにしています。
木川:それがICMG Groupの次の大きな戦略のコアになることは間違いないですね。国内、特に地方の見えない価値、つまり非財務価値を高めていくことは時間はかかるけれど、絶対に必要なことです。地方には志のある良い会社がたくさんあるけれど、外の世界とつながる関係資本がなかったり、ビジネスを変えるための工夫が少し足りなかったりする。
船橋:地方銀行の皆さんも、非常に志の高い方が多いですよね。ただ活動が地域の中に閉じてしまい、一歩外に出たときの関係性が弱くなってしまう課題があります。そこを私たちが接続する。これこそが、20年かけて培ってきた力だと思っています。
先日、シンガポールにある地方銀行の頭取が来てくださったのですが、現地の熱に触れて「これは絶対にやるべきだ!」と、躍動感のある表情をされていたのが印象的でした。そうした喜びを共有できること自体が、私たちの幸せでもありますよね。
木川:企業をキャッシュを生むためのマシンとしてではなく、人的資本の集合体として捉える。そして、各地域の志ある企業とグローバルサウスをつなぐ。この「コネクト」という戦略の軸は、間違っていないですよね。
―ー隠岐の島で起きた現場の想いを形にする力の覚醒
木川: 今思い出すと、2019年に隠岐の島で行った研修……あの時のワクワク感は、最高でしたね。
船橋:ヤマト社員の方々が、現地の一般家庭に泊まり込んで、一週間寝食を共にしながら地域のニーズを吸い上げるという、非常に泥臭いプログラムでしたね。
木川:参加した連中は、ものすごく感化されて帰ってきましたよ。
会社から指示された仕事型のビジネスではなく、地域に期待されているものをどうサポートするかを自分たちで考え始めたわけですから。
船橋:私たちも伴走させていただく中で、現場の方々の経験知には本当に驚かされました。ただ、一つだけ大きなカスタマイズが必要だった点がありました。
現場の皆さんは、とても良い話やアイデアをたくさん持っているのですが、それを紙に落とし、企画としてまとめるのが少し苦手だったんです。そこで私たちが間に入り、顧客から望まれている素晴らしいアイデアを、どうすれば形にできるかを一緒に練り上げるプロセスを組み込みました。
その結果、最後に社長や役員に説明する場面では、単なるプレゼンテーションではなく、一種の「感動の出会い」のような時間になりました。経営陣も「よくこんな話を持ってきてくれたな」と、現場の想いの強さに驚いていましたよね。
木川:あの地域共生を目指すプロジェクトからは、実際に貨客混載(かきゃくこんさい)のような具体的な取り組みも生まれました。人口減少で維持が難しくなっていたバス路線に荷物を載せ、路線を維持しながら効率化を図る。地域のニーズを吸い上げながら一緒に考える人材づくりは、今のヤマトにもしっかりと根づいています。船橋:私たちが「バランスシートに出てこない価値」と呼んでいる、人の頭の中にしまわれている価値こそが本物なんですよね。現場での何気ない会話や顧客接点にある素晴らしさを、新しいサービスや事業モデルへと変換していく。それを現場の人たちと直接対話しながら、スキルや経験値を大切にして描き直していく。それが私たちのスタイルです。
木川:現場をここまで大切にして、一緒に泣き、笑いを共有してくれるコンサルは、他にはいませんよ。経営者にとって、これほど安心感のあるパートナーはいないと、今でも確信しています。

――ICMG Groupのバリュー
船橋:これからのICMG Groupのあり方、そしてクライアントへの貢献という点で、私たちが今もっとも力を入れているのが「継承」です。2026年度から、全社員を対象に「智と軸のリーダーシッププログラム」を始動させます。九州大学の小木教授と連携し、20年かけて磨き上げてきた知恵の集大成とも言えるプログラムです。
木川:それは、とても重要な取り組みですね。私も社外取締役として、ICMG Groupの原点がどこにあり、クライアントが最も安心感を持てる価値は何か。その良さを、決して壊さずにいてほしいと願っています。
船橋:AIが進歩し、仕事がシステムに置き換わる時代だからこそ、人間特有の意思力(Will)や、実践に裏打ちされた知恵(Wisdom)の価値は、相対的に高まっています。単に知識を学ぶのではなく、自らの経験を知恵に変え、それを自分の言葉で伝えられる力を全社員が身につける。そうすることで、どのような仕事においても、知的資本経営(ICM)の哲学を根付かせたいと考えています。
木川:企業経営ではトップが偉大であればあるほど、バトンタッチ後のギャップで組織が立ち行かなくなることがあります。だからこそ、経営者はその時代に合った変革を遂行すると同時に自分の軸を持ち、その流れを引き継いで実行してくれる次世代を育てるところまで手を打たなければならないですよね。
船橋:私たちが「自分ごと化」にこだわるのも、まさにそこです。これまでの教育プログラムは掛け声だけで終わり、社員が自分ごとにできないまま挫折してしまうケースが少なくありませんでした。そこで私たちは個人の意志を確認するところから始め、それを組織の志であるパーパスへと重ねていきます。
木川:制度を整えたり、女性比率を上げたりといった表面的な数字ではなく、「次に何をやるべきか」を、経営者も社員も明確に言い切れる状態をつくる。そこまで寄り添ってくれるのが、ICMG Groupの強みですよね。
船橋:私たちは、知的資本経営の「4Dサイクル」を次世代リーダーに体感してもらい、最終的に彼らのビジョンが実現するまで、ナビゲーターとしてコーチングを続けます。教育プログラムを単なる研修で終わらせず、組織の中に変革の仕組みとしてインストールすることが目的です。
木川:ICMGという名前が示す通り、「智」と「非財務価値」、そして何より「人の軸」を大切にする。クライアントと泣き笑いを共有する——この泥臭いまでの安心感こそが、経営者が本気で新たな成長戦略を描く際の、不可欠な支えになりますね。
船橋:ありがとうございます。この「智と軸」を確実に継承し、組織として一段、二段とレベルの高い会社を目指していきます。時代が変わっても、この永続的な考え方を、次の100年へと広げていく決意です。
本対談は、以下のYouTube動画からもご覧いただけます。
木川氏と船橋会長が交わした、変革への情熱と「見えない価値」への想いを、ぜひ臨場感あふれる映像でもお楽しみください。