■ はじめに:60周年という転換点
2026年、日本とシンガポールは外交関係樹立60周年という大きな節目を迎えます。この60年で両国の関係は「貿易」から「投資」へ、そして今、「共に事業を創る」フェーズへと変わりつつあります。
かつて中継貿易の拠点として発展したシンガポールは、今や世界中の高度な技術と知見が集積し、次世代の社会モデルを最速で具現化する「グローバル・イノベーション・ハブ」へと進化を遂げています。多くの日本企業が現地に拠点を構えていますが、情報収集の窓口にとどまっていては、この地が持つ真のポテンシャルを活かしきれません。いま必要なのは、現地の多様なステークホルダーとリスクを共有し、新たな事業を自らプロトタイピングする「共創の場」として活用することです。
ICMGは2011年のシンガポールオフィス設立以来、この地を企業の競争力を多層的に引き上げる戦略的プラットフォームと捉え、官民学を巻き込んだエコシステムの構築に取り組んでまいりました。
■ なぜ、シンガポールなのか
シンガポールは2024年の世界イノベーションランキングで1位に選出されるなど、圧倒的な存在感を放っています。その原動力は、「人口・土地・資源の限定性」という国家としての切実な危機感です。自国リソースのみでの持続的な成長が不可能であるという前提から、シンガポールは「外部の知能を取り込み、国全体を巨大な実験場(サンドボックス)として開放する」という道を選びました。
東南アジア全体が今なお世界の「生産拠点」「消費拠点」として成長を続ける中、シンガポールの役割は大きく変容しつつあります。コストや土地の制約から単純な労働力を提供する場ではなく、高度な技術と地域の活力を繋ぎ合わせ、次世代のビジネスを設計する「イノベーションの中枢」へと進化を遂げています。自国のソリューションに限定せず、世界中から技術やアイデアをオープンに呼び込む——この徹底したオープンイノベーションの姿勢が、シンガポールのエコシステムの本質です。
■ 政府主導の国家戦略:社会実装への本気の投資
シンガポール政府は、AI、ロボティクス、スマートシティ、ヘルスケアといった重点領域に対し、世界中から投資と人材を呼び込んでいます。その基盤となるのが、国家戦略「RIE(Research, Innovation and Enterprise)」です。2025年までの5年間で250億ドル規模の予算を投じてきましたが、2026年からはその規模を370億ドルへと大幅に拡大し、社会実装への投資をさらに加速させています。
この戦略の核心は、単なる研究支援にとどまらず、研究成果を確実に「事業化」へと繋げる重層的な構造にあります。大学や科学技術研究庁(A*STAR)は先端研究を担うと同時に、自らも事業化のKPIを負っています。経済開発庁(EDB)や企業庁(Enterprise Singapore)といった政府機関、さらには民間企業と初期段階から連携することで、研究と市場のギャップを埋める体制を構築しています。
また、未来のビジネスモデルをいち早く試すための規制緩和や補助金といった制度的サポートも極めて強力です。日本では調整に時間を要するような新技術の実証実験も、国家成長に資すると判断されれば、各省庁が速やかにサンドボックスとして場を提供します。こうした政府による強固なバックアップが、シンガポールの圧倒的な実装スピードの土台となっています。
■ イノベーションを加速させる共創エコシステム
政府の戦略的な枠組みを支えているのが、世界屈指の密度を誇る共創エコシステムです。Blk71などの象徴的なインキュベーション拠点には、世界中のスタートアップ、高度人材、そしてリスクを取る投資家たちが集結し、次世代のスタンダードを創出しています。
VC、アクセラレーター、大学、そして政府機関が多層的にプロジェクトをサポートし、大企業とのコラボレーションを促すプログラムも、単なるマッチングにとどまらず、具体的な社会実装をゴールとして設計されています。産官学の各プレイヤーがそれぞれの役割を全うしながら一つの歯車として噛み合い、互いに刺激し合うカルチャーが根付いていること——このダイナミズムこそが、シンガポールを「世界で最もイノベーションを形にしやすい場」へと押し上げている最大の要因です。
ICMGはこの動きをいち早く捉え、2011年に現地オフィスを設立。政府機関、大学の研究機関、有力なスタートアップ、そしてそれらを支える投資家コミュニティとの間に、実プロジェクトを通じた密度の高いネットワークを築き上げてきました。
■ ICMGの視点:企業の「見えざる資産」を事業成果へ
ICMG Groupが2011年からこの地に根を張り続ける理由。それは、日本企業の中に眠る卓越した技術や、社会を良くしたいという組織や個人の強い想い、あるいはパーパスといった「見えざる価値」を、具体的な「事業成果」へと変換する圧倒的なダイナミズムがシンガポールにはあると信じているからです。
日本企業には、世界をより良くする膨大なポテンシャルが蓄積されています。しかし、その「知」をグローバルな文脈に接続し、スピーディーに形にできている例はまだ多くありません。私たちは、バランスシートには表れない企業の価値の源泉を可視化し、シンガポールの多層的なネットワークと戦略的に掛け合わせることで、新たな価値創造を加速させています。
■ ICMGにできること:エコシステムと日本企業をリンクさせる「共創の実行支援」
ICMGのシンガポールにおける役割は、現地のエコシステムと日本企業を繋ぎ、単なるマッチングを超えた「共創の実行支援」を担うことにあります。具体的には、以下の3つのアプローチで支援します。
1. 多層的なステークホルダーとの深い関係性を活かしたパートナー構築
科学技術研究庁(A*STAR)・経済開発庁(EDB)・JTCコーポレーション・建築建設庁(BCA)といった政府機関、シンガポール国立大学(NUS)・南洋理工大学(NTU)、そして数多くのスタートアップと、実プロジェクトを通じた深い信頼関係を築いてきました。この多岐にわたるネットワークを基盤に、日本企業の状況と戦略に応じた最適なパートナーを柔軟に巻き込み、社会実装に向けた取り組みを推進しています。

2. 「視察」で終わらせないプログラム・プロジェクトの伴走支援
日系企業・大学・地方自治体に対し、プログラムの企画から実装まで一貫して支援します。貴重なリソースを投じて現地に赴く以上、単なる情報の持ち帰りではなく、実利に結びつく成果が必要です。そのため私たちが最も重視するのは、現地の投資家や起業家との「真剣勝負」のディスカッションです。個人の内に眠る起業家精神を現場で掘り起こし、そこから生まれたアイデアを具体的な社会実装のプロトタイプへと磨き上げるプロセスに伴走します
そしてこの変容は、シンガポールで完結しません。現地での経験を携えて帰国したリーダーや起業家が、自らの組織・地域・コミュニティに「問い直しの文化」を持ち込む。その連鎖こそが、ICMGが目指す真の価値創造です。
3. アドバイザーの立場を超えた、当事者としての投資活動
ICMG自身もシンガポールを拠点にVCとして投資活動を行い、投資先とリスクを共有しながら事業成長を目指す「当事者」として活動しています。現地の起業家やトップティアの投資家たちとの濃密な「関係資本」を、日系企業・大学との取り組みに直接注ぎ込むことで、公開情報だけでは到達できない深度の共創を実現しています。
■ 具体的な共創事例
日本が培ってきた技術や知見を、シンガポールという「社会実装の場」で具体的なビジネスへと昇華させた、代表的な事例をご紹介します。
1. 日本発スタートアップの海外進出支援(JR東日本発「Touch To Go」)
JR東日本発の無人決済システムを展開する「Touch To Go」のシンガポール進出を包括的に支援。政府系機関JTC Corporationの本社ビルへのPoC(概念実証)導入を完遂。単にシステムを導入するだけでなく、現地のスマートシティ戦略や消費行動に合わせ、日本独自の技術という「見えざる価値」を現地の文脈に最適化。現在は、シンガポール初のスマートシティ拠点「プンゴル・デジタル・ディストリクト(PDD)」における本導入を見据え、社会実装をさらに加速させています。

2. 「日・シンガポール共創プラットフォーム(JSCCP)」の運営
経済産業省およびシンガポール政府機関との強固な連携のもと、ICMGは事務局として本プラットフォームの企画・運営を主導。単なるビジネスマッチングの場に留まらず、日本大企業の持つ「高度な技術・アセット」と、シンガポールが誇る「イノベーション・エコシステム」を有機的に結合。国を挙げた信頼関係(関係資本)をベースに、次世代の産業基盤を共に創り出すための戦略的な案件創出を継続的に支援しています。

3. 筑波大学との連携:学生起業家支援プログラム
大学に眠る研究シーズという「見えざる価値」を、世界で通用する事業家精神へと転換する実践型プログラムです。3〜5日間の渡航期間中、現地のトップ投資家へのピッチや潜在顧客とのディスカッションを戦略的に繰り返し、自らの技術がグローバルの「誰の、何の課題」を解決するのかを徹底的に問い直します。
日本の地域に埋没しがちな「才能」をグローバルの光に照らし出し、欠点の克服ではなく、個々の圧倒的な「強み」が活かされる舞台を研ぎ澄ませる。東北大学や仙台市から始まったこの取り組みは、現在、筑波大学をはじめ日本各地へと広がり、次世代リーダーが世界へ踏み出すための「覚醒の場」となっています。

4. 国連(UNDP)との戦略的パートナーシップ
国連開発計画(UNDP)のシンガポール拠点「UNDP GCTISD」とMOUを締結。東南アジア諸国が抱える切実な社会課題を、日本企業の技術が解決すべき「事業機会」として捉え直す仕組みを構築しました。SDGsを抽象的な目標に終わらせず、持続可能なビジネスとして社会実装するためのグローバル・イノベーション・ハブを共同運営し、社会インパクトと経済価値の両立を実現しています。

■ おわりに
日本とシンガポールの外交関係樹立60周年という節目は、両国のパートナーシップが「支援」や「協力」を超え、共通の未来を創り出す「共創」のフェーズへと移行する重要な転換点です。
そしてシンガポールでの共創経験は、現地で終わるものではありません。グローバルの文脈で問い直された日本の技術や強みが、国内の事業戦略や地域課題の解決に新たな文脈をもたらす。その往復のプロセス全体を設計することが、これから我々が皆様と共に実践していきたい試みです。
ICMGが2011年からこの地に根を張り、官民学の枠を超えて積み上げてきたネットワークは、単なる情報の繋がりではありません。それは、日本企業や大学が持つ「見えざる価値(知的資本)」を可視化し、世界最速の実証フィールドで具体的な事業へと変換するための、生きた「関係資本」です。
シンガポールのエコシステムを活用し、新たな価値創造を加速させたいとお考えの方は、ぜひICMGと共にその第一歩を踏み出しましょう。
▼ ICMG Group グローバルエコシステム構築支援(詳細は
こちら)